ワットチェッカー

TAP-TST5 ワットチェッカー

サンワサプライの製品. 最近,いろんなところで話題になってるようである. 斜め読みして「サンワなら安心かな」と思ってたら,測定器作ってる三和電気計器のほうではなくて,パソコンサプライ品のメーカの方でした.

で,サンワサプライのほうの web サイトにこのワットチェッカーの 説明書が載っていたので読んでみたのだけど…

内部的な測定方式についての説明が全くない

のである. おそらくは,内部ではそれなりの根拠のある方法で消費電力を出してはいるのだろう. が,測定方式がわからないと,表示される数値がどの程度根拠のある値なのかわからない.

実効値

交流の場合,電圧と電流は時々刻々変化している. で,交流の電圧や電流を表す場合,普通はピーク値の 1/√2 倍の値の実効値で表すことになっている. 一般家庭のコンセントの 100 V の電圧,というのも実効値である.

なぜ 1/√2 倍なのか,というと,

平均電力 = 電圧 x 電流

が成り立つように 1/√2 倍しているのである. ピーク値で計算すると,電圧波形のピークの瞬間消費電力になってしまうからである.

力率

高校の物理で,コイルに交流電圧をかけたときの話は習っていると思う. コイルに対して電圧はかかっているし,電流は流れている. が,コイルは電力を消費しない. なぜだろうか.

実は,コイルに流れる交流電流は,電圧に対して位相が 90 度遅れている. 交流波形の1周期分を細かく見ると,ある瞬間では確かにコイルは交流電源から電力を受けとっている. が,別の瞬間ではコイルは交流電源に対して電力を送り返しているのである. つまり,交流1周期でコイルは「電力をもらう」「電力を返す」動作をしており,差し引きプラスマイナスゼロ,となっているわけである.

では,電圧と電流の位相差が 90 度でない場合,例えば 45 度の場合はどうなるか. この場合も1周期分の電圧波形と電流波形を細かく見ると,やはりある瞬間では負荷は電源から電力を受け取っているが,ある瞬間では電源に対して電力を送り返している. で,トータルで見ると…差し引きで電力をある程度消費しているわけである.

電圧と電流の位相差θを考慮した場合の消費電力は

電力 = 電圧 x 電流 x cos θ

である. この cos θ の値を力率という.

cos θ は -1 から 1 の値を取る.

cos θ < 0
負荷は電源に対して電力を供給している
cos θ = 0
負荷は電力を消費しない
cos θ > 0
負荷は電力を消費する
cos θ = 1
負荷は電力を消費し,電源に電力を送り返すことはない

実際の回路の場合,電源と負荷を接続している電線にもわずかながら抵抗分が存在する. 電源に電力を送り返す場合にもこの電線の抵抗分は電力を消費する. で,この電力は電線を温めるだけで,負荷の利用者にとって何ら有効な仕事はしてくれない. つまり,電源には無駄に電力を送り返さないほうが無駄な電力を消費しなくて済む,

力率の高い装置ほど送電ロスは小さい

ということになる.

この電線での送電ロスというのもバカにならなくて,実際大きな工場になると,工場全体としての力率を上げるための装置を設置しているところもあるぐらいである. 力率が悪いともちろん「地球にやさしくない」ということもあるが,電気料金も割増になったりするからである.

PC という負荷

上記の話は,ちょっとした電気の本を読めば書いてある話である. が,ここで1つ落とし穴がある. 上記の話は

電圧波形・電流波形が共に同じ周波数の正弦波

であることが前提となっている.

が,PC という負荷は,困ったことに電流波形が正弦波とはならない. もっと困ったことに廉価版の UPS になると,停電時の電圧波形出力が方形波になっていたりする. というわけで,上記の議論をそのままあてはめることはできない. しかたがないので,消費電力の定義に戻って計算する.

瞬間瞬間の消費電力は

p(t) = v(t) i(t)

と表される. 平均的な消費電力は,

     1
P = --- ∫  p(t) dt
     T   T
 
     1
  = --- ∫ v(t) i(t) dt
     T   T

と表される. つまり,電圧波形・電流波形の積を1周期分を積算して時間平均を取ったものである.

先の実効値も

     1
V = --- √ ( ∫ v(t) v(t) dt )
     T        T
     1
I = --- √ ( ∫ i(t) i(t) dt )
     T        T

と,積算と時間平均に基づいて算出する必要がある.

力率も

皮相電力^2 = 有効電力^2 + 無効電力^2
       √(皮相電力^2 - 無効電力^2)
力率 = --------------------------
                 皮相電力

の式に戻らなくてはならない.

ディジタルテスタでは

高級なディジタルテスタになると「真の実効値」とか「true rms」というキーワードが売り文句になっている. 逆に考えると,安いディジタルテスタでは「いかさまの実効値」表示になっていることになる. つまり,「交流波形が正弦波である」という仮定の下に交流電圧・交流電流の表示をしているわけである. 当然,このようなテスタに非正弦波を入力しても「真の実効値」は表示してくれない. 安物 UPS の方形波の電圧を測ってもマトモな実効値はわからないのである.

というわけで

話は長くなったが,PC の消費電力を測定するのはかなり難しいということは分かってもらえたと思う. で,問題のワットチェッカー,かくも難しい課題に対しマトモに取り組んでいるのか,それとも手を抜いているのかが気になるところであるが,それについての説明は一切無い. 「何やってるのかは教えんが,オレを信じろ」とでも言うような感じである.

というわけで作ってるメーカのブランドイメージは置いといても,この機器を素直に信じられないのでありました.


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Last-modified: 2007-09-06 (木) 03:40:38 (6100d)